老後

老後


娘のいる男の一人暮らし、新たな引っ越し先を訪ねてみる。部屋の荷物は、すっきり。使い古しの据え付けていないエアコンが、畳の上を陣取っていた。廃棄するには、早すぎると思ってか。

男は、住いの場・娘の住所、両方の電話番号が言えない。家を出る際ケイタイを離さないよう、娘から言われている。初期の認知症らしい。めったに野菜を食べない、しかし台所には包丁を三つ備えている。

外へ出歩こうとせず、閉じこもりがち。話をする相手がいない、男の年寄にありがちなこと。酒とたばこを手から離すことのなかった彼が、飲まなくなった。飲みたいと明かす。

彼と外を数分歩いてみた、歩くことを嫌っていた過去を、覚えていないかのようにさっそうと歩く。私は息つきながら、休み休みして足を進める。月曜日が休みの公民館を訪ねてみた。彼にこの公民館を活用してもらおうと、見学に来たのだが、受付をしてもらうやり方がわからない。

身体検査をしているコーナーで尋ねてみた、どうすれば検査してもらえるか。市民でかつ65歳以上の対象者という。ドア前に書籍が並べられ、読書のできる空間が設けられている。その利用の仕方を担当に尋ねた、最後まで使い勝手を説明しようとしない。

公民館の庭には、12台駐車している。二階には、ガラス張りの壁を擁したアトリエ、食事のできる料理教室。10年以上は経っているだろう、格式高い設計に映る。しかし建築設計や内部デザインが、素人目からみて生きていない。

受付とみられる場所は、暗いコーナーであしらい、その奥に事務室が設けられている。対応できる人数は、その時ひとり。説明を受けていながら、心の内は燃え盛ってきた。

読書コーナーで、若者が一人、座って何かをしている。公民館の担当している二人の女性は、多目にみて30代。利用者のほとんどは、5〜70代。老いた者と若者との断裂をみる、公民館であった。

若者にも両親や祖父母がいるはず、しかし彼らの頭にはもうすでに亡くなっている。将来の若者たちの、老いの姿は見えないのかもしれない。

新しい住民が移ってきて、対応しない・できない。いわゆる在留外国人が学ぶため、日本語教室を開く準備をしていながら、受け入れる窓口を備えていない。児童や青少年を招き入れ、多様な社会を育もうとしないコミュニティ。お仕着せのこの公民館。

派遣・非正規労働者という名で、自らの仕事を歪曲化し、祖父母に匹敵する人たちを「殺して」しまう。受け身でしか考えられない若者。