今日は、死ねない

 ひかりごけ   2001年  (株)新潮社


 著者 武田泰淳

 朗読 八木光生玄田哲章関根信昭

    高木均西村朋紘



 激しい吹雪のために難破した第五清神丸。船員

 達は雪に閉ざされた洞窟の中に避難した。やが

 て食料がつき、生死の境に追い詰められた彼ら

 は、死んだ仲間の肉を食べて生き延びようとす

 る。












 今日は、死ねない






  
 今日は、どうしても死ねない。

 今日は、特別な日。

 足に何かできものがある、手で押さえてみる。

 靴を履くたびに、痛くなる。





 できものを切ってしまおうと、足を出してみる。

 みてみると、7センチほどの深い傷があった。

 この傷をして、5キロ10キロと歩いたことになる。

 いわば、自分の体を労わった覚えがない。





 
 人生の終わり近くなっても、体を責めてしまう。

 一日三食が必要ですか。

 一日風呂に入らないとだめですか。

 これでなければ、やっていけないというハードルを

 少しづつ下げてみようと思う。

 自分で自分を強いる、プレッシャーをなくそうよ。






 待ち合わせの時間に遅れて、急いで歩く。

 なぜそんなに危険を冒し、移動しなければいけないのか。

 時計を持っていても、時間にルーズな人は、

 遅れて来ても、気にかけない、ただの人。






 人に迷惑をかけても、急ごうとする。

 エスカレーターの歩きなど「典型」です、見ず知らずの人に

 災害をもたらそうとする。

 急ぐなら階段を使えばいいのです、間違っています。 

 構内アナウンスをしているところもありますが、

 いまもって、誰も守りません。







 今日は、絶対に死にたくありません。

 外に出ないことに決めました、今日は

 年に一回の誕生日なのです。

 何しろもうすぐ空から弾が落ちてくるのですから。