認知症と猫の介入

 認知症と猫の介入





わたしの顔を忘れていないか、それが一番の不安だった。

 しっかり忘れていなかった。

 



 反対にこちらが、訪ねるべき家を間違えてしまい、

 記憶力の衰えを感じる。

 部屋の様子が、どこか違ってみえる。





 家で飼っているように見えない、猫が入ってくる。

 猫の餌を与えるが、常時部屋にいるわけでない。

 猫が部屋に闖入する、スタイル。





 彼には娘がいるのだが、忙しく彼の住まいへやってこない。

 彼は話しをしたがっているのだが、彼の傍にやってこない。

 その間を取り持つのが、この猫かしら。






 彼の悩みを猫が聞き、猫が娘に伝えてくれる。

 もやもやした思いを、受け取ってくれる猫がやってくる。

 部屋で待っていれば、やってくるのだろう。







 彼は、今まで気にしなかったことを、悩むようになった。

 なぜ言葉に出して、言い出せなかったのだろうかと、

 その思いが噴出している。

 人生を反芻しているかのよう。