母は恋はずや

母は恋はずや   1934年  日本


監督 小津安二郎
出演 岩田祐吉
   吉川満子
   大日方伝
   三井秀雄
   笠智衆
   飯田蝶子


大黒柱の父親が急死し、母子家庭の経済は、厳しくなっていく。
母の愛情が公平でないことに気づいた兄は、喧嘩をして家を出る。
息子の兄は、亡き父の前妻との子どもだった。


声を荒げて話をすることのない、親子・母と息子。
その冷静な母親の態度、世間の親とは違う、不自然さを感じたのか。


卒業すれば、働かざるを得ない、大人になるのだから。
本来働いて、母親を助けるべき立場にいるのだが、
国民が、求めている社会経済にならず、働ける場がどこにもない。
いつまでも母子家庭の中に埋もれて、考えられるものはない。


大学生活を謳歌したい弟と、まじめな道を突き進み友達の借金に奔走する兄。
母親におんぶにだっこで、暮らしが成り立つと思っている。
その表れが、旧知の友達が人生の道に迷ったと手を差し伸べた。
人を悔悛させようとしていながら、主人公の兄が、同じ失敗を犯す。


母親役の顔が、画面いっぱいに映し出される。
思いのたけを吐き出す兄の心境。
しかし、母親は語ろうとはしない。
親子の対話で、何が真実を伝えていないのか、堂々巡りをさせられる。


身を引くために、母親に嘘をつくという行為。
それが、奥ゆかしいと思われていた時代があった。
こういう手法が、モダンさを求めていた監督の映像の中に、
かつて自己主張をしない、母親の姿が執られていた。