いまに問う  ヒバクシャと戦後補償

「市民講座」

いまに問う ヒバクシャと戦後補償


2006年 10月 20日発行


発行所  凱風社

編者   高橋博
     竹峰誠一郎
     ( グローバルヒバクシャ研究会 )

執筆者  木村朗
     田中熙巳
     星野ひろし
     前田哲男
     内藤雅義
     柳原伸洋
     沢田昭二
     豊崎博光
     今中哲二
     鎌仲ひとみ
     振津かつみ


あとがき     竹峰誠一郎・高橋博

美しい国」なるものを標榜する安倍政権が誕生した。条件付きながら核武装合憲論
を講演会でわざわざ公言した人物が、被爆60年を超えて首相の座についた。安倍首
相は、侵略戦争や「慰安婦問題」の教科書記述の見直しにも熱心である。そんな安倍
首相が率いる政権は「戦後レジームからの新たな船出」を高らかにうたい、「新たな
憲法の制定」、つまり現平和憲法の破壊に猪突猛進している。

靖国神社にはせっせと参拝しても、被爆・敗戦60年を超えたいま、あの戦争被害者
たちが、いわば最期の力をふりしぼり日本政府へ戦争責任を問う訴えを起こしている
現実には、全く振り向けようとはしない。

本書で取り上げた、中国:重慶空襲の被害者や遺族も、日本政府を相手に集団提訴に
踏み切った。さらに東京大空襲の被害者や遺族も、日本政府に対して初となる集団提
訴を起こす準備を進めている。広島・長崎の原爆被爆者団体、日本被団協は今年50
年を迎えたが、一貫して日本政府へ国家補償を求め、最近では原爆症認定を求める集
団訴訟も起こしている。

広島・長崎原爆、東京大空襲重慶爆撃は、「原爆と一般戦災」「加害と被害」など
と振り分けられる向きもあるが、それらを複合的視点でどのように結び付けたらいい
のか、彼らの訴えに私たちはどう向き合うべきなのかーーというテーマで今年六月、
グローバルヒバクシャ研究会はシンポジウムを開催した。そこには<未決の戦後補償
>の姿がくっきりみえてきた。

安倍総裁誕生の報がながれた時、私は被爆地長崎にいた。「被爆はもうリアルではな
い」との声がこの長崎でも聞かれる時代になった。確かに長崎の街を歩いてもリアル
さはさほど感じない。私がよく行くマーシャル諸島でも同様である。

しかし、豊崎博光氏がいうようにヒバクはそもそも見えないものだ。放射性物質は無
色・透明・無臭である。さらにヒバクの影響は、国防と密接に関わりあうため、情報
コントロールされる。しかも、核開発国は被害者の人権を無視し、被害の程度を過小
評価する。いわば情報コントロール下で、「核兵器による安全保障」体制や「原子力
安全神話」が築かれている。情報コントロールに切り込まずして、ヒバクの実相や、
核がはらむ平和運動はなかなか見えない。

加えて核兵器には差別構造があり、ヒバクの影響は「中心」ではなく「周辺」に押し
つけられている。核開発の構造は、世界のヒバクシャや原子力開発のありように目を
むけるとよくみえてくる。「周辺」への眼差しと共感がなければ、加害と被害の二重
基準の克服ができない。

ヒロシマナガサキを含む地球規模に広がる様ざまなグローバル・ヒバクの問題を戦
後補償ともつなげながら幅広く網羅し、「見えないヒバク」問題を見通す一冊ができ
あがった。・・・・・・・



転記